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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)1325号 判決 1998年1月22日

甲事件原告(乙事件被告)

砂川真生

甲事件被告(乙事件原告)

坂本由貴子こと李仁淑

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金八四万一三四二円及び内金七六万一三四二円に対する平成八年五月二四日から支払済みまで年五分の割台による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金一一万二八三二円及びこれに対する平成八年五月二四日から支払済みまで年五分の割台による金員を支払え。

三  甲事件原告のその余の請求及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、甲事件被告兼乙事件原告と甲事件原告兼乙事件被告との間に生じた分については、両事件を通じ、これを一〇分し、その七を甲事件被告兼乙事件原告の負担とし、その余を甲事件原告兼乙事件被告の負担とし、補助参加によって生じた分については、これを三分し、その二を甲事件被告補助参加人の負担とし、その余を甲事件原告兼乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一三二万六三三二円及び内金一〇八万六三三二円に対する平成八年五月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金七六万二八八五円及びこれに対する平成八年五月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件被告兼乙事件原告が運転する普通乗用自動車と甲事件原告兼乙事件被告運転の自動二輪車とが衝突した事故につき、甲事件原告が甲事件被告に対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づき、乙事件原告が乙事件被告に対し、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により比較的容易に認められる事実事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成八年五月二四日午後〇時一五分頃

場所 奈良県生駒市東生駒一丁目五〇九番地先(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(奈良三四ろ六九五)(以下「坂本車両」という。)

右運転者 甲事件被告兼乙事件原告(以下「坂本」という。)

右所有者 坂本(甲六14)

事故車両二 自動二輪車(大阪せ六三三二)(以下「砂川車両」という。

右運転者 甲事件原告兼乙事件被告(以下「砂川」という。)

態様 左折中の坂本車両と直進中の砂川車両とが衝突した。

二  争点

1  坂本の過失の有無

(砂川の主張)

本件事故は、坂本の基本的な注意義務の違反によって惹起されたものである。すなわち、坂本は、左折行為を始める手前三〇メートルで方向指示器を出さず、かつ、予め道路の左側に坂本車両を寄せることなく、急激に左折行為に出た上、さらに左折走行直前にも左折巻き込みしないように目視する義務を怠り、漫然と左折進行したために起きたものである。

(坂本の主張)

坂本は、予め指示器をもって左折することを示し、坂本車両の左後方はサイドミラーで確認した後に左折を開始した。ところが、左後方の確認時に坂本車両のはるか後方を進行してきた砂川車両が、前方の信号機のみを注視し、かつ、猛スピードで進行してきたため、坂本車両に接触したものである。

2  砂川の過失の有無

(坂本の主張)

争点1において述べたとおり、本件事故の発生原因は、砂川の前方不注視と制限速度違反にある。

(砂川の主張)

争点1において述べたとおり、本件事故は、坂本の基本的な注意義務の違反によって惹起されたものであり、砂川には何ら落度はない。

3  砂川の損害額

(砂川の主張)

(一) 治療費 一二万七五三〇円

(二) 通院交通費 一万三四四〇円

(三) 休業損害 一二万三四六二円

(四) 慰謝料 二五万円

(五) 物損

(1) 砂川車両全損 五二万五〇〇〇円

(2) 眼鏡 二万円

(3) 上着・ズボン 二万六九〇〇円

(六) 弁護士費用 二四万円

(坂本の主張)

不知。

4  坂本の損害額

(坂本の主張)

(一) 坂本車両修理代金 六一万八八八五円

(二) 弁護士費用 一四万四〇〇〇円

(砂川の主張)

否認する。なお、本件事故と右弁護士費用との因果関係はない。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1及び2について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲六1ないし14、甲事件原告本人(後記措信しない部分を除く)、甲事件被告本人(後記措信しない部分を除く))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、奈良県生駒市東生駒一丁目五〇九番地先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場を通る道路(以下「本件道路」という。)は、奈良県生駒市の市街地を南北に走る片側一車線の市道であり、両車線ともその幅員は路側帯を含め約四・五メートルであり、制限速度は時速四〇キロメートルと指定されていた。本件事故現場付近である本件道路東側路外には、「エレガンス花」の駐車場がある。本件事故現場付近における本件道路の前方の見通しはよく、本件事故当時、本件道路の路面は乾燥していた。本件事故現場から約二〇ないし三〇メートル南方には信号機の設置された交差点がある。

坂本は、平成八年五月二四日午後〇時一五分頃、坂本車両を運転し、本件道路の南行車線を時速約四〇キロメートルで走行し、別紙図面<1>地点において左ドアミラーで後方を走る砂川車両を確認した後、同図面<2>地点で左折の指示器を出しながら時速約一〇ないし二〇キロメートルで徐行して同図面<3>地点でハンドルを左に切り左折進入を開始したところ、同図面<×>地点において同車線の路側帯を時速約四〇ないし五〇キロメートルで直進進行してきた砂川車両が坂本車両の左ドア付近に衝突し(衝突時の坂本車両の位置は同図面<4>地点、砂川車両の位置は同図画<ア>地点)、砂川は同図面<イ>地点に転倒し、坂本車両は同図面<5>地点に停止した。坂本は、図面<1>地点において砂川車両を確認した後は、衝突時まで同車両の位置を確認していなかった。砂川は、坂本車両の左折の指示は確認していなかった。

以上のとおり認められる。砂川は、坂本車両ら数台が信号で停止中、砂川車両がその左側を走行していたところ、坂本車両が咄嗟に左折を開始した旨主張し、甲事件原告本人尋問中にも、坂本車両らが縦列停車の間隔で停車していたところ坂本車両がいきなり左折してきたという趣旨を述べる部分があるが、縦列停車中の車両間において坂本車両がそのまま左折を開始したとみることは前車との間隔の関係で疑問があり、これを採用することはできない。また、衝突箇所につき、甲事件原告本人尋問中には、坂本車両の左角前方付近と砂川車両とが衝突したものであるとする部分があるが、坂本車両の破損箇所が左ドア付近であることに照らし、措信しえない。他方、甲事件被告本人尋問中、別紙図面<1>地点から衝突までの間にも砂川車両の位置を確認した旨を述べる部分があるが、実況見分調書の指示説明内容(甲第六号証の二)及び被疑者供述調書における供述内容(甲第六号証の五)に照らし、措信しえない。他に前認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、主として、坂本が本件道路から路外の駐車場に左折進入するにあたり、左後方から直進進行してくる車両の有無・動静に注意し、安全を確認して進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と進行した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、その反面において、砂川としても、交差点手前で徐行状態となっている車両らの左横の路側帯を追い越しながら走行する以上、路外の駐車場等への出入口の有無、本件道路から右駐車場等に左折進入する車両の有無につき一定の注意を払いつつ進行することが期待されたというべきであるところ、前記事故態様によれば砂川にも坂本車両の進行について注意を欠く点があったことは否定できない。それゆえ、本件事故の主たる原因が坂本の過失にあるとしても、一方的に坂本の過失のみをとがめるのは公平に反する。したがって、本件においては、前認定の一切の事情を斟酌し、坂本と砂川の過失割台は、八五対一五の関係にあると認めるのが相当である。

二  争点3について(砂川の損害額)

1  証拠(甲二、六6、甲事件原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

砂川(昭和四九年一月一七日生)は、本件事故当時、帝塚山大学の学生であり、学生の傍らファーストフード店及び居酒屋でアルバイトを行っていたものであるが、自宅から右大学へ登校する途中で本件事故に遭った。砂川は、本件事故当日の平成八年五月二四日、学芳会倉病院にて診察を受け、四肢挫滅創、右末四指末節骨々折の傷病名で、平成八年五月二四日から同年六月一五日まで通院治療を受けた(通院実日数七日)。

2  損害額(過失相殺前の損害額)

(一) 治療費 一二万七五三〇円

砂川は、本件事故による傷病の治療費・文書費として、一二万七五三〇円を要したと認められる(甲三1)。

(二) 通院交通費 一万三四四〇円

砂川は、通院交通費として、一万三四四〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)。

(三) 休業損害 七万四七二七円

前認定事実、証拠(甲三1、四、六7)及び弁論の全趣旨によれば、砂川は、平成八年五月二四日から同年六月一五日まで二三日間休業を要する状態であったこと、本件事故当時の砂川のアルバイト収入は、一日あたり平均三二四九円であったことが認められる。

砂川は、平成八年六月三〇日まで就労不能であったと主張するが、右主張にかかる事実を認めるに足りる証拠はない。

以上により、砂川の休業損害を算定すると、七万四七二七円となる。

(四) 慰謝料 一四万円

砂川の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は一四万円が相当である。

(五) 物損

(1) 砂川車両全損 五二万五〇〇〇円

砂川車両は、本件事故により経済的に全損し、このため、砂川は、五二万五〇〇〇円の損害を被ったものと認められる(甲五1ないし4)。

(2) 眼鏡 一万円

砂川は、眼鏡の時価額として、一万円の損害を被ったと認められる(弁論の全趣旨)。

(3) 上着・ズボン 五〇〇〇円

砂川は、上着・ズボンの時価額として、合計五〇〇〇円の損害を被ったと認められる(弁論の全趣旨)。

3  過失相殺後の金額 七六万一三四二円

以上掲げた砂川の損害額の合計は、八九万五六九七円であるところ、前記一の次第でその一五パーセントを控除すると、七六万一三四二円(一円未満切捨て)となる。

4  弁護士費用 八万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき砂川の弁護士費用は八万円を相当と認める。

なお、砂川の請求は、弁護士費用については遅延損害金を求めない趣旨と解される。

5  まとめ

よって、砂川の損害賠償請求権の元本金額は八四万一三四二円となる。

三  争点4について(坂本の損害額)

1  坂本車両修理代金 六一万八八八五円

坂本車両の修理費用として、六一万八八八五円を要したと認められる(乙一)。

2  過失相殺後の金額

右六一万八八八五円から前記一の次第でその八五パーセントを控除すると、九万二八三二円(一円未満切捨て)となる。

3  弁護士費用 二万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき坂本の弁護士費用は二万円を相当と認める。

なお、砂川は、坂本の請求はこれを訴訟で請求しなくとも過失割合さえ決まれば自動的に定まるのであって、砂川はこれを拒否する気持ちは全くないから、本件事故と右弁護士費用との因果関係はないと主張する。しかしながら、砂川は、坂本の損害額(坂本車両修理代金)を否認し、また、砂川自身には何ら過失はないと主張していることにかんがみると、本件においては坂本が反訴を提起することも相当であると解されるから、砂川の右主張を採用することはできない。

4  まとめ

よって、坂本の損害賠償請求権の元本金額は一一万二八三二円となる。

四  結論

以上の次第で、砂川の坂本に対する請求は、八四万一三四二円及び内金七六万一三四二円に対する本件不法行為日である平成八年五月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、坂本の砂川に対する請求は、一一万二八三二円及びこれに対する本件不法行為日である平成八年五月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面 交通事故現場見取図

<省略>

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